postnetart.net history & important artists

インターネット登場、初期ネットアート、ハッキングからバナリティへ。

1990年、ティム・バーナーズ=リーが世界で初めてのwebサーバーとブラウザをCERNで完成させる。
世界最初のwebページは  http://info.cern.ch  で見れる。
また、もうちょっと詳しいいきさつは http://timeline.web.cern.ch/timelines/The-birth-of-the-World-Wide-Web
そこから色々あって、1990年代初頭からネット上で作品を制作するアーティストが現れ始める。
Wolfgang Staehle によって1991年から開始されたメール、BBSなどによるThe Thingというプロジェクトや、1993年にEd Stastny によって開始されたSITO.orgというアーティストコレクティブなどがあったけど今回はそのあたり飛ばします。
ニューヨークを拠点とするネットアートのポータル、rhizome.orgは96年に開始。
国内の事で言うと1991年に、電話網の中の見えないミュージアムが、
1995年にon the Web —ネットワークの中のミュージアム—が開かれる。
同じく1995年に町田市立版画美術館で「アート・オン・ザ・ネット」展(後にnetarts.orgに改称、2007年に終了)が開催。

Grammatron / Mark Amerika (1993 - 1997)

http://www.grammatron.com
最初期のネットアーティストであり、アヴァン・ポップの作家でもあるMark Amerikaが制作した「パブリックドメイン・ナラティブ・エンバイロメント」。
膨大なテキストと画像、サウンドを用いてサイバースペースとカバラ神秘主義や、デジタルパラ通貨、バーチャルセックス等についての物語が綴られている。

http://wwwwwwwww.jodi.org / jodi.org (1995)

http://wwwwwwwww.jodi.org
Joan HeemskerkとDirk Paesmanによるアーティストグループ。彼らのこのサイトは、一見壊れたhtmlの様に見えるが、ソースを見ると、 原子爆弾の模式図のアスキーアートになっている。
他にも、%WRONG Browserとか

My Boyfriend Came Back From the War / Olia Lialina (1996)

http://www.teleportacia.org/war/
ロシア出身のネットアーティスト、デジタル民俗学の研究者でもあるOlia Lialinaの作品。 クリックしていくことでフレームが分割していって多層な構造で物語が進んでいく。
いろんなアーティストにremixされている作品で、 http://myboyfriendcamebackfromth.ewar.ru でremix作品を見る事ができる。

DESKTOP IS / Alexei Shulgin (1997 - 1998)

http://www.easylife.org/desktop
ロシア出身のネットアーティスト、 Alexei Shulginによる世界初の国際オンラインデスクトップ展覧会。
色んな知り合いのアーティストなどからデスクトップのキャプチャを送ってもらって展示していた。
同名の「DESKTOP IS」というポエムがちょっといい。
また、世界初の国際フォームアートコンペティションも1997年に開催している。

net.art

ここまで紹介したMark Amerika、jodi、Olia Lialina、Alexei Shulgin (他にはVuk Ćosićとか Heath Bunting とか)
などのアーティストによる、初期のネットアートのムーブメントがnet.artと呼ばれる。
Alexei Shulgin が、net.art入門と称してまとめたリストがあるので、それを見るとこの頃のネットアートの雰囲気が分かると思う。

http://www.easylife.org/netart/

機械翻訳版

ざっくり言うと、ハッカー文化、アクティビズム、アナーキズムといった政治的文脈が強く関係していた感じ。
必ずしも当時のアーティストがみんなそうだったわけではないが、そういった流れが主流だった。

Every Icon / John F Simon Jr (1997 - )

http://numeral.com/appletsoftware/eicon.html
John F Simon JrのEvery Icon は、32×32ピクセルのアイコン画像の、ありうるピクセルの組み合わせすべてを試し続ける作品。
当時のキャプションを読むと、最初の一行目のバリエーションを出し切るのに1.36年、二行目が完了するのが58.5億年かかるとのこと。

Simple Net Art Diagram / MTAA (1997)

http://www.mtaa.net/mtaaRR/off-line_art/snad.html
Michael Sarff と Tim WhiddenによるMTAAというグループの最初期にして最も有名かもしれない作品。というか図。
漠然とした存在のネットアートが、どこに存在するのかを的確で完結に表した図。
MTAA自体は、ちょっとエンターテイメント的というかお笑い的、現代美術的なアプローチ。こんな作品とか。

Our Political Work by MTAA
他に有名な作品だと、1 year performance video (aka samHsiehUpdate)
ちなみにこの図は後にAbe linkoln (実はAbe linkoln は Rick Silvaだっていう話もあるけど未確認)によってこのようにリミックスされる。深い意味はなさそう。

ARTIST'S STATEMENT N0. 45,730,944: THE PERFECT ARTISTIC WEB SITE / Y0UNG-HAE CHANG HEAVY INDUSTRIES (2000)

http://www.yhchang.com/PERFECT_ARTISTIC_WEB_SITE.html
Young-hae Chang と Marc Vogeによるチャン・ヨンヘ重工業というグループの作品。
一環して、flashを使って大きく表示されたテキストが切り替わっていく形式で作品を制作している。
日本語インタビュー記事

Super Mario Clouds / Cory Arcangel (2002)

http://www.coryarcangel.com/things-i-made/supermarioclouds
https://www.youtube.com/watch?v=fCmAD0TwGcQ

Cory Arcangelによるファミコン(nes)のカセットを使った作品。スーパーマリオのプログラムを書き換えて、延々と背景の雲がスクロールし続けるように改造した作品。
けっこうプログラミングの出来る、ハッカーみたいなアーティストなんだけど、結果でてくる作品はもっとアート的。
作品がネット上に限らず現実世界へアウトプットされた物も多く、Cory Arcangelあたりを新しい世代、ポストインターネットアートへの転換点と見ることも出来るかもしれない 。
他には、シェーンベルグの曲をネット上にあるネコがピアノを弾いている映像で再現した作品とか。

Natural Process / exonemo (エキソニモ) (2003)

http://www.exonemo.com/NP/indexJ.html
2003年12月、IEに表示されたGoogleのトップページをキャプチャ、その画像を元に巨大な絵画作品を制作。会場で展示中の様子をネットで中継し、再度インターネットに戻す。 また、この展示の後、Google japanに購入されたり。さらに2012年「インターネット アート これから」でこの作品をアップデートしようとするが色々大人の事情があって断念することになるのだけれど、 このあたりの経緯も面白い。
最近は、IDPWという100年前から続くインターネットの秘密結社のメンバーとしても活動

neen (2000 - 2010?)


http://miltosmanetas.com/filter/Neen/NEEN-ART-MOVEMENT
なんとなく、段々とハッカー的、アクティビズム的な表現が主流だったネットアートの世界にちょっと違った文脈の表現が出てきます。 そうした中の1つに2000年にMiltos Manetasによって提唱された"neen"というムーブメントがあります。 コンセプトなどについてはなかなか説明しにくい謎なムーブメントなんですが、flashなどを使ったシンプルな作品がneen作品とされていて、 多くのアーティストがneen作品を制作しました。日本では萩原俊矢が参加していたりしました。
また、ここで多くの作品を発表していたのが後述するRafaël Rozendaal です。
過去の作品一覧はここから見れます。
また、マニフェストの日本語訳などがここにまとまっています。

Hacking vrs. defaults / Guthrie Lonergan (2007)


http://guthguth.blogspot.jp/2007/01/hacking-defaults-hacking-nintendo.html
Guthrie Lonergan がまとめた、旧世代のネットアーティスと新しい世代のネットアーティストの違いについてのチャート。 これで全てを説明しきれるわけではないが、ここ数年のポスト・ネットアートの流れを理解する手だてになる資料だと思う。
僕が勝手に日本語訳したバージョン

Post Internet (2008?)

「Post Internet (ポスト・インターネット)」は2008年にMarisa Olsonというアーティストがインタビューの中で用いた言葉だが、インターネットが特別なもので無くなり、 一般的で陳腐なものになった時、アーティストとインターネットの関係は変化した。それは、「ネットアート」という特殊なジャンルではなく、「アート」がインターネットを通過した形なのではないかと思う。
研究者の水野勝仁さんがまとめた「ポスト・インターネットで途方にくれないためのメモ」

jello time .com / Rafaël Rozendaal (2007)

Rafaël Rozendaalは、1ドメインに1作品というスタイルで鮮やかな色彩のflash作品を制作し続けている
また、作品はそれぞれ販売もしていて、購入するとそのコレクターの名前がサイトのtitleに記載される。
その売買に特化した契約書も用意されている
シンプルだけどそのグラフィックの美しさも良いし、ネットアートを販売、コレクションすることについての問題を前進させたアーティストだと思う。
また、BYOB(Bring Your Own Beamer)というプロジェクターをそれぞれ1台持ち込んで、自分の作品をもちよって表示するイベントの提唱者でもある。
BYOB TOKYO 2011の様子

The Most Infamous Girl in the History of the Internet / Attractive Student / Parked Domain Girl / Parker Ito (2010 - 2012)

http://www.parkerito.com/parker_ito/
ドメイン切れしたサイトに一時期よく表示されていた、ハンナという女性の画像をモチーフにした作品のシリーズ
中国で激安で手書きの油彩画を作成するサービスなどを利用してハンナの絵画を発注、それをそのまま展示したり、さらに自分で加筆したバリエーションもある
後述するJon RafmanやArtie Vierkantとのグループ展、「new jpegs」なんかも興味深い。
「インターネット アート これから」で来日した際のICCのトークイベントでパーカーが朗読したポストインターネットについてのポエム

Image Objects / Artie Vierkant (2011 - )

http://artievierkant.com/imageobjects.php
現実の空間に展示されたレリーフ作品の画像を再度Photoshopで加工し、あり得ない空間を生み出している作品。現実の展示とその記録の主従関係が宙づりになってしまう。 インターネットが普及し、膨大なイメージがある種の現実、リアリティを生み出している状況において物とイメージの関係は変化している。その事をシンプルな手法で鮮やかに見せてくれる。
Artie Vierkantが書いた同名の論文、「The Image Object Post-Internet」はこちらから
また、Artieらが参加しているthe Joggingという tumblrはこちら

9 eyes / jon rafman (2008 - )

http://9-eyes.com google street viewで、ちょっと異質な風景を探し出してコレクションしている作品。合成によるエラーみたいな風景や、何かの事故、事件を感じさせる風景などが写っている。 他にも、Parker Itoらと行っていたPaint Fxというtumblrや、Oneohtrix Point NeverのMV等も面白い。

Waiting / Ryder Ripps (2011)

http://ryder-ripps.com/WAITING/
OKfocusというデザイン会社を運営してもいるRyder Rippsの作品。見たまんまですが、 他にもInternet Archaeologyというプロジェクトも興味深い yahooがフリーのwebスペース、GeoCitiesを2009年に廃止する際に、そこにあった過去のインターネットの画像やMIDIなどのデータを引き上げ、 分類、展示しているプロジェクト。

Gif Market / Kim Asendorf (2011)

http://gifmarket.net
プログラムで自動生成した1024個のGIfアニメ全てに値段を付けて販売した作品。GIFはインターネットの外に出す事のできない固有のオブジェクトであるとし、それを売買、コレクションすることの重要性を指摘している。
他にも、宇宙に始めてGIFアニメを送ったり、 Ole Fach と共にネットアートギャラリーFach & Asendorf Gallery を運営している。

Dead Drops / Aram Bartholl (2012)

http://deaddrops.com
オフラインな公共空間でP2Pなファイルのやりとりをする為のネットワーク環境としての作品。壁の割れ目など、ちょっとした隙間にUSBメモリーを埋め込んで行き、その位置をgoogle map上で確認出来る様になっている。
DVDを焼いてくれるDVD版もある。

put it on a pedestal .com / Anthony Antonellis (2011)

http://www.putitonapedestal.com
バーチャルなギャラリー空間の中に展示台を置き、その上にGIFアニメを配置して展示空間を作る事ができる作品。
最近、NetArt作品を 身体に埋め込んだ事で話題になったり。

GIF (2012)

2012年、アメリカ版オックスフォード辞書の選ぶ「Word of the Year (日本で言う今年の新語、流行語大賞に近い)」に動詞として「GIF」が選ばれた。 GIFはインターネットが一般化する以前の89年から存在する古いファイルフォーマットだが、tumblrの盛り上がり、iPadなどのモバイルデバイスがFlashを搭載しなかったこと、 ファッション業界でショーのレポートの速報や、ニュースサイトで動画の代わりに使用されたことなどで2012年に(再)流行した。また、この2012年以前からGIFを作品の素材に用いるアーティストも増えてきていた。 2011年のAPMTというカンファレンスイベントで「ネットの質感」というテーマの中、エキソニモが観衆に「GIFとjpgどっちが固いか?」と問いかけていた。
「インターネット アート これから」座談会 GIFとJPEGどっちが硬い?——Webの質感と〈インターネット・リアリティ〉

The New Aesthetic (2011)

http://www.riglondon.com/blog/2011/05/06/the-new-aesthetic/
イギリスの研究者、 James Bridleによって提唱されたターム。コンピュータや、インターネットが普及した現在における視覚、認識の変化についての問題。 人間ではなく、コンピュータの視覚や知覚を前提としたデザインや造形が現れてきているという変化。
この問題を受け、アーティストのNick Britzが the NewAesthetic.jsという、 現在のポストネットアート的な表現が簡単に作れるコンセプチュアルなライブラリを発表したりもした。