[考えてみる]In-game Photography

 In-game Photography

In-game Photography

近年「In-game photography」と呼ばれる、新たな写真表現が生まれてきています。その名の通りビデオゲームの中で撮影された写真作品のことです。 これは、純粋に写真の新しい領域や、ニューメディアアート、あるいはゲームアートのひとつの形態として捉えることもできるでしょう。 「In-game photography」の作品は、それぞれのゲームのファンコミュニティの中でやりとりされたり、写真家やメディアアーティスト、現代美術の作家たちによって制作されています。これらの写真作品に映る風景を見ていると、現実の世界によく似ているけれどどこか違う、妙な質感や魅力が感じられます。この質感はどこからもたらされたものでしょうか?また、これらはたんに画面のスクリーンショットを撮ることとどのように違うのでしょうか? これらの問題は僕もまだ考え中ですが、いくつかの事例をみながら考えを深めていきたいと思います。

シミュレーションされるカメラ

MARCO DE MUTIIS: VIDEO GAMES & PHOTOGRAPHY: A BRIEF HISTORY

SITUATION #36: Video games and photography, a brief history [Trailer]

スイスのギャラリー、Fotomuseumのキュレーターであり、アーティストとしても活動するマルコ・デ・ムティスは、近年In-game photographyを含む、ビデオゲームと写真の関係について調査しています。このプレゼンテーションの中では、特にゲームの中で、写真を撮影するために登場するカメラの事例が多く紹介されています。例えば、PS3のゲームソフト「Afrika(2008)」ではsonyのデジタル一眼レフカメラや、各種の交換レンズなどが登場します。そこでは、たんにレンズのズームだけでなく、シャッタースピードや感度設定、オートフォーカスのモードの設定などを操作できるようになっています。



古いメディアは、新しいメディアにとってのコンテンツとなることがあります。例えばカメラや電話は、いまやiPhoneのアプリケーションの一つとなっています。あるいはこの関係は、古いゲーム機やOSが、最新のコンピューター上でエミュレーションされて動作することと似ているかもしれません。 「Afrika」では、デジタルカメラがゲームの中でコンテンツとしてシミュレーションされていると言えるでしょう。

また、マルコ・デ・ムティスはECAL(ローザンヌ州立美術学校)のリサーチプログラム「The Augmented Photography Research Project」に寄せたテキストで、「Photo Mode」(フォトモード) というエッセイを書いています。

Photo Mode : Marco de Mutiis


フォトモードは、近年のビデオゲームに搭載されている新しい機能です。通常のスクリーンショット機能とは異なり、ゲームをプレイ中に一時停止し、時間が静止した状態で周囲を移動して構図を決めることができます。また、さらにフォーカスや絞り、被写界深度、色調、周辺減光、フィルムの粒度などを調整できます。つまり、これらはフィルムカメラも含む、伝統的な写真撮影にまつわる技術的条件がシミュレーションされて実装されているわけです。こうしたフォトモードの登場は、ゲームの中で描かれる、リアルタイムレンダリングのCGの技術が向上し、よりリアリスティックな表現になってきたこととも関係しているでしょう。 マルコ・デ・ムティスは、Photo Modeのエッセイの最後にこのようなことを書いています。

「(物理的な、現実の)カメラが失われ、シャッターボタンを押す前にすでに対象が静止し、シャッターを押す前にフレーミングしている夕日がすでにピクセルによって作られている時、写真を撮るという行為は何を真に意味するでしょうか。」

撮影装置としてのカメラが、ソフトウェア化され、ゲームの中でシミュレーションされる時、これまでの写真とは違う可能性が生まれているはずです。いま紹介したフォトモードの事例では、ある決定的な瞬間にシャッターを押し、レンズの特性でボケが生まれ、像が歪んだり周辺減光がおき、フィルムの粒子が映り込むといった、本来一瞬で行われる1つのプロセスが全て分解され、個別に操作可能なものになっています。こうした状態を踏まえ、ソフトウェア化されたカメラの可能性について考察、実践していくことがIn-game Photographyにおいて重要に思えます。

In-game Photography の作品

Portraits (2006-07) Eva and Franco Mattes


http://0100101110101101.org/portraits/
Eva and Franco Mattes は、セカンドライフに参加しているユーザーの様々なアヴァターのポートレートを撮影しました。こうしたアヴァターは、本人に似せて作られるものもあれば、より理想の存在として作られることもあります。また、セカンドライフ内で用意された様々な素材や、セカンドライフ自体の描画エンジンによって生まれてくる質感があります。こうしたプレイヤーの欲望や、セカンドライフ自体がもつ世界の特性による質感が映し出されているとも言えます。

BORING POSTCARDS FROM ITALY (2016) COLL.EO

http://colleo.org/postcards-from-italy
マテオ・ビタンティとコリーン・フラハティによるコレクティブ、COLL.EOは、オープンワールドのレースゲーム Forza の中で写真を撮影して写真集を制作しました。ゲームの中のイタリアをモデルにした平凡な風景(しかし実在しない)が、ポストカード(絵葉書)として表現されています。この作品ではスティーブン・ショアや、マーティン・パーなどの絵葉書をテーマにした写真家の作品が参照されています。

GTA IMAGE AVERAGE SERIES (2017) Claire Hentschker

http://www.clairesophie.com/gta-image-average-series/ アメリカのアーティストClaire Hentschkerは、GTA V のゲームの映像を平均化し、どこか幻想的な写真作品を制作しました。これは、ドイツのロマン主義の画家、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒを参照して制作されています。GTA V という暴力的なゲームが、宗教的な荘厳さを持つ風景へと作りかえられています。

DoD (2009-2012) kent sheely

http://www.kentsheely.com/dod
ゲームを用いた作品を数多く制作してる kent sheelyは Day of Defeat: Source というFPSゲームを改造し、GUIの表示や、武器を取り除きました。また、銃を発射するボタンをスクリーンショットを撮影する機能へと置き換えました。そして、兵士としてではなく、ジャーナリストの視点からゲームの中の戦場を記録していきました。あらい粒子の質感や、手ブレを起こしたような表現は、ロバート・キャパのような戦場カメラマンによる写真の美学に基づいています。

Backseats (2015-) Leonardo Sang

http://leosang.com/vrp/#/backseats/
ブラジルの写真家、レオナルド・サンは、VRP (Virtual Reality Photography)と自身が呼ぶ、ゲームの世界で撮影した写真作品を手がけています。この「Backseats」は、レースゲームに登場する自動車の後部座席の視点から撮影した写真作品です。本来速さを競うものであるレースゲームを、後部座席の視点から撮影することで、のどかなロードトリップ(車による長旅)の場面へと変えています。

CROSSROAD OF REALITIES (2014) Benoit Paille

https://gbuffer.myportfolio.com/crossroad-of-realities
写真作品を多く制作しているアーティスト Benoit Paille はGTA V の中で撮影した写真と、iPhoneやコンパクトカメラを持って撮影している様子を実写で撮影し、合成した作品を制作しました。ゲームの中の風景が現実のようなリアリティを持ち始め、いっぽう実写のイメージもまたゲームへと近づいていく、まさにリアリティの交差点といえる作品です。

Videogame Landscapes (2012 ?) Justin Berry

http://thisisntme.com/2015.html#b
Justin Berryはゲームの中で撮影されたスクリーンショットを緻密にコンポジションして、精密な風景写真を制作しています。これらは全て自然の風景のように存在するものではなく、ゲームデザイナーによってすでにあらかじめモデリングされた風景です。そうした膨大な、「すでにつくられた」ことの量の質感を感じさせます。