2020年5月の状況:感染症とインターネット

 The situation in May 2020: infectious diseases and the Internet

2020年5月の状況

Simple Net Art Diagram, MTAA, 1997

IN.F3XXX10N.US, Jon cates, 2010


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全世界的な流行により、多くの国で外出の自粛や出入国の制限などの対応が取られています。日本でも、4月7日に非常事態宣言が発令されました。そのため、現在わたしたちは外出の自粛を要請され、大学も閉鎖されていて入校できない状況です。この非常事態宣言がいつ解除されるのか、解除されたとしてもこれまでの日常がいつ、どのように戻るのかはいまだ見えない状況です。

私たちが直面している問題は、現実の空間を利用して作品制作や、展示が行えないという状況です。このウェブサイトは、このような状況で、作品制作や展示を続ける方法を考えるための資料です。

この状況で作品制作や展示を続けることは、何を意味するか。

作品制作や展示のための物理的な空間が使用できないことは、(例えば彫刻学科のように実在を扱う分野では顕著に)その表現や活動の基盤をゆるがす事態といえます。つまり「作品制作や展示」という一連のプロセスが、事故やエラーといった不具合を起こしている状況です。しかしこうした、エラーなどの不具合は、私たちが普段無意識の向こう側へ追いやってしまった事物の本当の特性を改めて見直すきっかけになります。たとえば、私たちは自分の腕が自由に動くときに、それをなんとも思いませんが、痺れたり、怪我をして自由に動かせない時に、腕がとても重い肉と骨の塊であることを感じ、その事実に気づくのです。そしてそれは「わたしの腕」とは一体どういった物なのかを考えさせる入り口になります。

つまり、今のこの状況で作品を制作し、展示しようとすることは、そもそも「作品を制作すること」や「作品を展示すること」とはいったい何だったのかを棚卸しして問い直すこと(問い直さざるを得ない)でもあるのです。そのよう捉えると、この取り組みは、作品制作やその展示に対して批評的な眼差しを持つものとして、前向きに捉えることが出来るはずです。

感染症とインターネット

こうした、外出が制限され、人が集まることができない状況下では、インターネット上での活動が活発になっています。ライブの無観客配信、オンラインゲーム内で実施されるライブパフォーマンスや展覧会、ウェブサイト上で閲覧できるオンライン展覧会、zoomなどのビデオチャットで行われる演劇など、様々なジャンルでインターネットを活用した試みが行われています。

一方で、私たちは感染症の流行を防ぐために、人ごみを避け、外出を自粛し、マスクの着用や手洗いを徹底しています。つまり、私たちは今インターネットと感染症という2つのネットワークの問題に向き合っているわけです。前者は電話線を光や電子が移動することで情報を運び、後者は人と人の接触を介してウィルスが情報を運ぶネットワークです。どちらも目に見えないほど小さな存在が情報を運んでいます。そして、今私たちは前者のネットワークを活性化させる一方で、後者のネットワークを断ち切ろうとしているのです。

このwebサイトのトップページは2つの画像が表示されています。一つ目はMTAAというアーティストグループが1997年に制作した「Simple net art diagram(シンプルなネットアート概念図)」です。これは当時現れ始めた「ネットアート」について、そのあり方を端的にあらわした図で、その明晰さから今もなお様々な場所で参照されています。そしてさらにネットミームのように様々なリミックスを生み出してもいます。二つ目の画像は、そうして改変された「Simple net art diagram」のうちの一つで、2010年にJon catesによって作られた「IN.F3XXXX10N.US(私たちに感染)」バージョンです。これはまるで現在の状況を予言していたかのようです。きっと、今の状況にしか生まれない芸術表現があり得るのかもしれません。