いろいろなオンライン展覧会のかたち
ネットアートの展覧会は、これまでに数多く開催されていて、先ほど紹介した以外にも様々な試みが行われてきました。そうした歴史を、ネットアーティストたちが協力して年表形式にまとめた「AN INCOMPLETE TIMELINE OF ONLINE EXHIBITIONS AND BIENNIALS」というRhizomeのwebページがあります。この表を参照しつつ、特徴的なオンライン展覧会、オンラインギャラリーを簡単に紹介したいと思います。
chrystalgallery (2010)
Timur Si-Qin によるキュレーション。ギャラリーと、そこに展示された作品すべてがCGでレンダリングされ、その画像がwebサイトに掲載されています。こうしたCGでレンダリングされた画像をオンラインの展覧会として発表する形式はこの後、他のオンライン展でもいくつか試みられています。
chrystalgallery
“FREE 4 ALL” barmecidalprojects(2011)
「barmecidal(見かけだけの、偽りの)projects」という名前のオンラインギャラリー。残念ながら最初の展示「FREE 4 ALL」以降展覧会は開催されていませんが、CGで構築されたギャラリー空間内には、現実の空間では設置不可能な状態の作品があったり、妙なリアリティと、非現実的な質感が入り混じっています。映像を展覧会として見せる手法は新鮮さがありました。
“FREE 4 ALL” barmecidalprojects
PANTHER (2013)
こちらも、作品やギャラリー自体がCGでレンダリングされた、ヴァーチャルなオンラインギャラリーです。1つの展示室がアーティストに与えられ、そこでアーティストが展示を展開していきます。特徴的なのは、展覧会が順々に公開されていくと、ギャラリー自体が増殖していくようになっています。いっけん見た目は現実の空間を模したリアリスティックなイメージですが、オンライン特有の会期や空間の無限性が奇妙な空間を生み出しています。
PANTHER
The Widget Art Gallery(2011)
Mac OSX のWidgetという小さなアプリケーションを常駐させるシステムがあったのですが、そのWidgetを活用して小さなギャラリーをデスクトップへ配信するアートギャラリーです。ギャラリーに作品を見に行くというよりも、家の壁に絵画を飾って鑑賞するような体験になっていました。
The Widget Art Gallery
FLOAT(2012)
Manuel Rossner によるオンラインギャラリープロジェクト。webページを使用してヴァーチャルなギャラリーを展開している。ギャラリー空間を割と素直にwebページの仕組みに翻訳していて、かつキュレーションとして作家の選択や見せ方が秀逸なオンラインギャラリー。Manuel RossnerはVRの展覧会や、アーティストとしても活躍している。
FLOAT
New Scenario(2015)
paul barsch と tilman hornig による「コンセプチュアル、タイムベース、パフォーマティブな展示フォーマットのためのダイナミックなプラットフォーム」です。それぞれの展覧会において、作品がどこに存在しているのかという基本的な条件が自由に操作されています。たとえばJurassic Paintという展覧会では、会場は恐竜の住む先史時代に設定され、そこに絵画作品が展示されています。そこではタイムスリップした河原温のデイト・ペインティングなどユーモラスな状況がうまれています。しかしこうした時代や場所といった条件すらも操作可能にしてしまう手つきに驚きを覚えたりもします。
New Scenario(cover-19の流行を受け、閉鎖している)
Jurassic Paint | New Scenario
Online Gallery Playset(2012)
これはギャラリーというよりも、正確にはAram Barthollというアーティストの作品です。ネットアート作品は、どのように展示し、鑑賞するべきかが度々問われている芸術形式だと言えます。普段使用しているパソコンやスマートフォンなどの身近な環境からインターネットにつないで、そこで鑑賞されるのが本来のネットアートであって、それをわざわざ美術館やギャラリーといった既存の芸術の制度の中で鑑賞する必要ががあるのかという問題です。このOnline Gallery Playsetは、簡単な紙工作で誰でも好きなネットアート作品をギャラリーに展示できるキットですが、そうしたネットアートにまつわる展示や鑑賞の問題は、これで一気に解決するのかもしれません。
Online Gallery Playset
NTT インターコミュニケーション’91「電話網の中の見えないミュージアム」(1991)
NTT インターコミュニケーションセンター(ICC)が、1991年に電話回線を用いて行なった実験的イベントです。電話、ファックス、パソコンを通じて、約100人もの参加作家の作品を体験できました。インターネットの商用サービスが始まる以前の1991年に、電話線というインフラをヴァーチャルな展示会場に見立てた展覧会があったわけですが、今再びこのアプローチについて考察すると、そもそも展覧会や、それが行われる空間とは何かという問題について様々な示唆を与えてくれます。
NTT インターコミュニケーション’91「電話網の中の見えないミュージアム」