谷口暁彦 個展「超・いま・ここ」会場図

jump from

2007

有名な横スクロールアクションゲームをモチーフとした、インタラクティブな作品。液晶ディスプレイの一部に、ゲームの画面が映し出され、鑑賞者はコントローラーを操作することでゲームをプレイすることができる。しかし、ゲームの様々な場所でジャンプすると、ジャンプしている一瞬の間、画面が実写映像に切り替わる。この映像は、作者自身が、過去その場所で同じように操作し、キャラクターをジャンプさせている映像である。あらかじめ作者がゲーム内のあらゆる場所でジャンプし、その映像をデータベースとして保存しており、鑑賞者が同じ場所でジャンプすると、過去の映像に切り替わる仕組みになっている。鑑賞者の「今」の選択を「過去」のデータベースによってあらかじめ予言しておくような、あるいは、「過去」に撮影された映像を、鑑賞者の「今」の選択によって操作しているように感じさせる作品。

今回の展示では、映像を再撮影し、1920×1080pxの画面サイズで動作するよう再制作したものを展示した。

「jump from」は修士2年の前期に制作した作品だ。このころ、同じ大学で油画科だった荻野(荻野瑶海)らとよく飲みに行っていて、映画や作品の事などをよく話していた。確か6月とか7月ごろ、新宿三丁目の中華料理屋で飲んでいるときに、この作品の案を思いついたのを覚えている。多分講評会が近づいてきて、そろそろ作品のアイディアを考えなければと思って飲みにいったのだと思う。この少し前から荻野は『予言をしている』ような作品を作りたいと言っていて、このような例え話をしていた。


あるギャラリーに1枚の絵画が展示されている。絵画には、その絵画が展示されているギャラリーの駐車場が描かれていて、黄色いスポーツカーが停まっている。ある人が展覧会に訪れ、その絵画の前に立つと、ひどく驚いていた。なぜなら、その人は絵の中と同じ黄色いスポーツカーに乗ってギャラリーにやってきて、絵の中の駐車場と同じ駐車場にスポーツカーを停めたからだ。


荻野は油画科だったから、こうした予言のような作品を絵画で実現しようとしていたのだけど、僕はその話を聞いて、なんとかインタラクティブな構造で実現できないかと考えた。(絵画というスタティックな形式でなく、コンピューターを用いて実装してしまうことの野暮さに対して、後ろめたさも感じていたが。)その結果、横スクロールのアクションゲームを用いて、ジャンプした瞬間に、過去に同じ場所で撮影した映像をオーバーラップさせるという、この作品の構造に行き着いた。中華料理屋で荻野と飲みながらこのアイデアについて話をしていて、確かその数時間の会話でほとんど作品の構造が決定して、あとは作るだけというところまで一気に進んだ。実際に作品が完成して、何度か展示する機会があったが、作品を体験している最中に、ジャンプして過去の映像に切り替わる度に後ろを振り返るそぶりを見せる人が数人いた。話を聞いてみると、実写映像が映る瞬間に、カメラによってリアルタイムに撮影されているものが映っていると勘違いしていたのだ。作品を作るときに、そこまでの事態を想定していなかったが、予言の不思議さ、面白さの背後には、そうした因果関係や時間の前後関係が不定になる構造があることに気づいた。過去が現在を演じることで、現在が弛緩し、過去を含んでしまうような状態。いま思うと、この作品から始まった、因果関係や時間の前後関係の不定さへの興味が、この後10年続くことになったのだと思う。また、この作品では映像に自分自身が登場したり、BGMを自分で歌った鼻歌にしているが、こうした手法もまた、この後の作品で度々用いられることになる。