谷口暁彦 個展「超・いま・ここ」会場図

夜の12時をすぎてから今日のことを明日っていうとそれが今日なのか明日なのかわからなくなる
After it was past 12:00 of the night, when I will say "today" is "tomorrow", I can't discriminate between tomorrow and toda

2010

左には実物の壁掛け時計が掛けられ、右にはその壁掛け時計を、短針が一周する12時間分を撮影した映像が液晶ディスプレイに表示されている。 映像として映し出される時計は、その時刻が現在の時刻と全く同じになるようプログラムで制御しながら再生されていて、実物の時計に対して、常に1秒以下の誤差でぴったり同期している。映画の中で悪役がこちらに向けて銃を撃っても、その弾丸が鑑賞者に当たったり、鑑賞者がその弾丸を避けようとしないように、映像に記録されたものは、すべて過去の出来事となり表象だけしか再生されないし、本来もっていた機能を失ってしまう。しかし、この映像の時計は元の時計が持っていた機械的な身体を一切持たないにもかかわらず、現在の時刻を正確に表示する限り時計として機能しうる。表象だけの幽霊のような作品だ。

2012年にICCで展示したバージョンをそのまま展示している。

大学を卒業してすぐのころ、同期だった渡邉くん(渡邉朋也)と共に「たにぐち・わたなべの思い出横丁情報科学芸術アカデミー」という連載をCBC-NETというwebサイトで書いていた。これは、思い出横丁情報科学芸術アカデミー(OAMAS)という架空のメディアアートの学校を設定し、そこで日々行われる思索と実践の様子を描いていくという内容だった。(第二回の原稿公開後、第三回が書かれないまま7年ほど経ってしまっているが、まだ連載中であると解釈することもできる。)この「夜の12時をすぎてから今日のことを明日っていうとそれが今日なのか明日なのかわからなくなる」という作品は、この連載の中で出題した実技課題の作品として制作したもので、課題文は以下のようなものだった。

●問題文
-人は霊感が上がると幽霊が見えるようになると言われている。下記の条件を踏まえて、"幽霊"をつくりなさい。

●条件
-コンピュータとネットワーク、それぞれに関連する技術を用いること
-記号としての"幽霊"を描くのではなく、その存在を表現すること
-あらゆる人間の生命活動を脅かさないこと
-"神"と"ゾンビ"はつくらないこと

たにぐち・わたなべの思い出横丁情報科学芸術アカデミー
第2回「たにぐち・わたなべのスーパーマイルドセブン」

つまり、コンピューターやネットワークなどのテクノロジーを用いて「幽霊」を作るという課題だ。この時僕は、幽霊とは足がないにもかかわらず(身体がない・すり抜ける)、そこにいるように見え(イメージだけは存在している)、場合によってはこちらに危害を加える可能性がある(機能を有している)ものだと考えていた。これらの条件を満たす存在として、過去に撮影された映像でありながら、きちんと機能する時計という案を思いついた。シンプルすぎる作品だなとも思いながら、しかしあまり時間もなかったので、12時間連続で撮影できるヴィデオカメラを購入して撮影し、一気に完成させた。今にして思えば、いかにも課題作品的で、ひねりのない、直球すぎる作品だなとも感じるが、過去のイメージが一生懸命現在を演じている様にも見えてきて、可愛らしく感じることもある。