谷口暁彦 個展「超・いま・ここ」会場図

スキンケア
skincare

2015

立体物を3Dスキャンによって記録すると、表面のテクスチャデータと形態のメッシュデータに分解され保存される。3Dデータはあくまでも表面と形態という表象しか記録できないため、どんなに正確に記録された3Dデータでも、現実に存在する物体とは違い、中身は空っぽとなる。西洋の幽霊(ghost)が、しばしば中身の無い布だけの存在として描かれるように、3Dデータも皮膚だけの幽霊のように存在している。この作品では、そんな幽霊の皮膚を3つの方法でお手入れ(スキンケア)した。

今回の展示では、全3点のうち「パック」「透明感」だけをピックアップして展示している。ただし、「透明感」はオリジナルでは非表示になっていた、位置決め作業用のデバッグ画面も展示している。

パック

08-1|パック
お菓子のパッケージを白く塗りつぶしたものを配置し、固定する。そこに、あらかじめ撮影しておいた元のパッケージのテクスチャをシールにして貼りつける。お菓子のパッケージは、すでに重なりあった状態で固定されているため、テクスチャーのシールは正確に貼り付けることが難しくなってしまっている。つまり、たんに作業の手順を間違えたために失敗しているわけだ。しかし同時にそれは、対象を個別なものの集合として捉える視点と、1つの連続したものとして捉える視点という、異なる対象への認識が混在した手順でもある。

透明感

08-2|透明感
テーブルの上に置かれたお菓子を3Dスキャナーで記録すると、形態を記録したメッシュデータと、表面の柄を記録したテクスチャデータに分かれて保存される。通常はコンピューターの中でメッシュデータにテクスチャデータを貼り付けて表示するが、この作品ではテクスチャデータを大きくプリントアウトして壁に掛け、それをカメラで撮影し、リアルタイムにメッシュデータに貼り付けて表示している。壁にプロジェクションされたCGは、一見すると何の変哲も無い3Dデータのように見えるが、鑑賞者が壁に掛けられたテクスチャデータの前に立つと、鑑賞者自身がテクスチャデータとなり、お菓子の3Dデータに貼り付けられ表示される。メッシュデータと、テクスチャデータの間に現実の空間が挟み込まれている。

2015年に神保町のSOBOで行った展示だ。当時、ほぼ同時期にミルク倉庫で「無条件修復」という展覧会があり、本来そこで展示する予定だった新作が、技術的な問題で完成させることが難しくなった。なので、急遽SOBOに出す予定だった過去作品を「無条件修復」で展示することにした。当然、SOBOで展示する作品が無くなるため、別に新作を作る必要が出てきてしまった。そこで急遽制作したのがこの「スキンケア」だった。展示タイトルも直前で「スキンケア」に変更したため、すでに旧タイトルで印刷済みだった展示フライヤー(SOBOのフライヤーは正方形の小さなステッカーだった)と展示タイトルもメインビジュアルも一致しなくなってしまった。印刷しなおす時間も無いし、ちぐはぐな感じも面白いと思ってフライヤーはそのままにすることにした。作品自体は、泉まくらのミュージックビデオを制作していた時、習作として作ったプログラムから発展させることにした。3Dスキャンで生成された3Dデータのうち、テクスチャデータをスライドさせるというものだ。スライドさせると、3Dモデルの表面をテクスチャだけが横滑りしていく奇妙な現象が起きる。このテクスチャをプログラム上でスライドさせるのではなく、紙にプリントアウトして、それをカメラでリアルタイムに撮影することで「透明感」という作品になった。